こんにちは。劇団木霊2021年本公演『YOKO』ブログの最終回は、演出ユリと主宰目黒、二人の合同投稿です。写真をユリにもらって、文章を目黒が書くスタイルでお送りします。冒頭の写真は果たしてどこの写真なのか、ユリが何に惹かれて撮ったのか、目黒には全く分かりません。分からないけど、私にはなんとなくこう、記憶の中の原風景という感じがしますね。記憶は髪に宿ると信じていたことがありますが、実際のところ、どれだけ髪を切ろうが、どれだけ髪を伸ばそうが、記憶は自ずと思い出されるし、自ずと後回しになります。自分は記憶のことをあまり好きになれません。
「記憶は思い出された時点ですべからく美しい」とはその通りで、今ここの自分と永遠に隔たっているというだけで、記憶には特別性を感じざるを得ません。到達不可能な理想郷のように輝かしいです。でも記憶は、そのまま過去の事実とは限らない、どこまでも主観的な、印象の集積です。だから、仮に過去に戻れたらそれでいいという話ではない。主観的な集積ゆえ、例えば自分が何に苦しんだか、どうやって死にたかったか、ということよりも、どう苦しんだか、どんなふうに死にたさを抱えていたか、ということの方が、ずっとずっと尾を引くのです。その時々の印象が積もって、自分の印象にまた印象を持って、今この瞬間にしかない印象の集積を作り出し続けます。なんだか良いもののような気がしてくるけれど、でもそれは、印象に結びついた過去が永遠に対象化されないということで、触感的な時間が自分の肉体に練られ続けるということで、私にはそのアンコントロールな仕組みがとても重苦しく思えます。自らが積み上げてきた印象に、一生笑われて、生きていくような気がしています。
これは稽古の帰り道の写真ですね。ところでカメラというのは、印象を切り取って固定する装置です。写真は手に触れる印象であり、対象化される記憶であり、コントロールされた/あるいはしたいと願った視野です(こんなことを言ったら情熱的な写真家に怒られるのだろうか)。それから、写真にうつると、うつった人は一方的に見られる存在になります。感覚に受容されるだけで働きかけなくなった物体は、さほど生きていません。留めておきたい視野ほど、写真に撮れば、ただシリアルナンバーのような、索引のような、便利なものになって、もう消費の対象です。最近フィルムカメラが流行っているのは、曖昧なノイズがこの記号感とささやかに対立してくれるからなんじゃないかと思います。決して消費したいわけではなくても、どうしたって残しておきたくて、写真を撮ってしまう、iCloudの写真を定期的に見返してしまう、ああ懐かしいな、この時はつらくて、でもなんだか良かった気がするな、ここまでがセットです。記憶に騙されている。気がする。良いのでしょうか。生きていて良いのでしょうか。
もしかしたら良いのかもしれません。どう考えるかは人によります。それを良しとするか、悪しとするか、主観的な尺度によるものです。稽古をやっていると、公演を動かしていると、どうしたって人は違うのだということを目の当たりにします。全員が違うものを感覚として受容して、異なる印象を持って、あらゆるバリエーションで集積して、記憶にして生きています。恐ろしいことです。恐ろしく、祝福すべきことです。可能性がいくつも掛け合わさって、めちゃくちゃなレアリティでそこに現象を立ちのぼらせている。
恐ろしく、祝福すべきことです。
『YOKO』も、この作品に立ち会ってくださる全ての方も、一人ひとりの祝祭が、あるはずなのです。だからどうか、明日から始まる限定的な祭典を、よろしくお願いいたします。
そのうちに、実際にお会いできる日が来ることを心待ちにしながら。
劇団木霊2021年本公演
『YOKO』
主宰 | 目黒ほのか
演出 | ユリアヤ
脚本 | マツモトタクロウ
日時 | 2021年 5月21日~24日
料金 | フリーカンパ制
観劇方法 | 収録映像公開
ご予約 |
出演 | 大石水月
岸香保里
富樫萌々香
細谷天歩
ユリアヤ
演出部 | スミタシオン 内藤響子 弁象庵 麗乃
舞台監督 | 菅原茉利奈
舞台監督補佐 | 橘美海 藤枝拓磨
舞台美術 | 星りこ
舞台美術補佐 | 内山泰輝 河合咲良 清水雄大 髙橋陸生 田中香穂 藤枝拓磨
音響 | 公©︎
音響操作 | 波多野比奈
音響補佐 | 飯田櫻子 前田朱音 立念法師
照明 | 弁象庵
照明操作 | 麗乃
照明補佐 | 内山泰輝 鏡原すず 清水雄大 深見莉子 福島未悠 幸
映像 | 目黒ほのか
映像オペ | 立念法師
映像配信 | 目黒ほのか
衣装 | 久保友理亜
衣装補佐 | 笹田伶 下野はな 橘美海 目黒ほのか
制作 | にいづま久実
制作補佐 | 樹田ひなた 重村眞輝
宣伝美術 | 深見莉子
宣伝美術補佐 | 久保友理亜 スミタシオン
WEB | 飯田櫻子
WEB補佐 | 鏡原すず
撮影 | 深見莉子
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